写真家長沢慎一郎が語る撮影秘話シリーズ。
長沢慎一郎氏本人が厳選した自身の作品や撮影にまつわる秘話、初心者にも参考になる撮影のコツを解説します。
第三弾の今回は前回の被写体との関係性(人と人との距離感)に関連して、3枚の写真とともにポートレートでのレンズ選び(実質的距離)についてお話しいただきます。
前回の記事はこちら→プロカメラマン長沢慎一郎が語る作品の撮影エピソード〜The Bonin IslandersのRoyさん〜
長沢慎一郎とは
長沢慎一郎は、日本の先住民として小笠原に住む「小笠原人」に密着した写真家です。
その他にも広告写真などの撮影も多く行っています。
長沢氏の代表作は自身がフィールドワークとしている、小笠原人に密着した写真集「The Bonin Islanders」http://www.akaaka.com/publishing/the-bonin-islanders.html。
日本の先住民として小笠原に住む「小笠原人」に密着し、彼らのアイデンティティに迫っています。
2021年の5月には写真展も開催され、注目されている日本の写真家の一人です。
長沢慎一郎公式HP→ https://shinichiro-nagasawa.com/
今回の写真
瀬堀健さん
この写真は4×5の210mmを使っています。
動かないように近くにあった岩に座ってもらい撮影しました。
ピントは浅く(開放)目にあわせてあります。
南ジョージさん
John .F.Washingtonさん
この2枚は、中判カメラで撮影したものです。
南ジョージさんの写真は、中望遠の120mmマクロレンズでかなり寄って撮影しています。
被写体との良い関係、ほどよい距離感を作り、現場がいい空気に包まれた時に撮影を始めました。
ポートレートでは、こうした被写体との距離の中にある空気感まで写し込むような気持ちで撮影しています。
ポートレートのレンズ選び
ポートレート撮影で顔のアップやバストアップを撮影する時は標準レンズから中望遠レンズで撮影することが多いです。
特にアップの時は、寄ることができて歪みもなくボケ味も良い中望遠レンズを選びます。
標準レンズで寄った時は、被写体との距離がかなり近くなりますが、中望遠レンズを使うと被写体との間にほどよい距離間がうまれます。
「The Bonin Islanders」では4×5の大判カメラも使いましたが、一番多く使ったのは機動力のある中判カメラです。
レンズの絞り値を開放で撮影するとどうしても被写体が動いてしまうので、こちらも素早く動きなおせるようにというのが中判カメラを選んだ理由です。
2cm前後に揺れてしまうだけで、かなりピントがずれてしまいます。
The Bonin Islandersでのポートレートにかける想い
「The Bonin Islanders」では、撮影が進み出したときに、彼らに投げかける言葉がありました。
それは
「占領時代のことを思い出してください。」
という言葉。
占領時代を知らない若い瀬堀健さんには
「子供の頃や(若くして亡くなった)お父さんのことを思い出してください。」
と投げかけました。
このシリーズの目的は、彼らのアイデンティティーを可視化する事でした。
撮影時、実際には彼らの瞳には、撮影した時の景色や、私の姿が映り込んでいます。
しかしこの言葉を投げかけた瞬間、彼らが見ていたもの、彼らに見えていたものは「Bonin Islander」と言われていた占領時代のこと、家族との思い出です。
彼らの目や表情にそういった想いが表れるよう、「写らないものも写したい」という気持ちでその言葉を投げかけました。
まとめ
今回はポートレートのレンズ選びに焦点をあてて長沢さん自身の使用したレンズを例に解説していただきました。
ポートレートは被写体との心理的距離、そして今回解説していただいた実質的距離、どちらも最適な距離で撮影することがいい写真を撮るポイントであることがよくわかるお話でした。
また、「写らないものを写したい」という思いから生まれた撮影の際の会話は、日常のポートレート撮影でもぜひ参考にしたいところです。
撮影するときは、写真に表したい被写体の内面が引き出せるような会話を意識してみましょう!
長沢慎一郎についてはこちらの記事でも紹介しています。
写真集の写真撮影時の撮影秘話も満載ですのでぜひ御覧ください。
→先住民としての「小笠原人」に密着した注目のフォトグラファー長沢慎一郎